
先月からずっと考えていた大山の紅葉狩り。今回は西の奥様のリクエストで、以前にそれぞれを歩いた南壁の下の三の沢と二の沢を、トラバースして線で結ぶという計画だったが、その三の沢から二の沢にまたがり裾野に向かって筋の様になって続く、小高い尾根を登ってトラバースしている人がネットで探してみてもなかなかいなかった。
ただ一人だけ三の沢から登って二の沢に下る様子がYOUTUBEにアップされていた。しかしその男性はスティックハンマーを使ってガツガツと登り、下りは長いフィックスロープを使って懸垂下降で降りていた。そんな道具は待っていないし、意外と高さのある登り下りに躊躇していると奥様に連絡をして、他にこの時期に紅葉を目当てで歩けるルートがないかと考えた結果、二人が未踏の山の烏ケ山に登ることになった。
まずは蒜山インターを降りて直ぐのつるや食堂でお弁当を買い求める。ここは食堂スペースの横に目移りするほどの数の手作りのお弁当がずらっと並んでいる。


お弁当を買った後は国道482号線を西に。途中の下蚊屋地区から北上し、サントリーの天然水・奥大山の大きな工場の手前で大山の大きな背中と、烏ケ山の尖った山頂が並んで見えた。空模様はまずまずの様子に期待感が膨らんでいく。
休暇村奥大山の手前にある駐車場に車を停めると、すでに何台かの車が停まっていた。その中の一台から、支度を終えたご夫婦が新小屋峠に向かって歩き始めていた。
駐車場からは彩の奥に烏ケ山の南峰も色づいている様子が伺えた。


我々は先ほどのご夫婦とは反対の、駐車場から少し南に下がった鏡ケ成キャンプ場の手前の登山口から取り付いて行く。キャンプ場入り口までの環状道路の両脇の紅葉はピークを迎えようとしていた。


登山口からしばらくすると道が不明瞭になったり、急に幅の広い登山道になったりする分かりづらい道を歩いて行く。


自然林の中、それまで歩いていた道から外れた笹藪の方向にピンテが付いていた。不審に思って立ち止まってGPSを確認するが正確な道は分からず、仕方がないのでピンテを信じて笹の中に飛び込んで行く。
背丈を優に超える笹のトンネルに、腰を屈めながら進んで行くが、何日か前に雨が降ったのか足元はぬかるんでいて随分と歩きにくい場所がある。



そんな背の高い笹の生い茂る中だが踏み跡は何とか分かるので、道を外れることはない。
腰を屈めて潜って行ったり、両手で掻き分け進んで行ったりしていると、次第に頭の上にはカラフルな色彩が広がり始めていた。



登山口から40分近く歩いただろうか、最初は地形図では等高線の間隔が広かったのが1100mの等高線辺りからその間隔が狭くなり、等高線通りに道の勾配も次第に急になってきた。しばらくして振り返ると象山の裾野がこちらに向かって広がっていた。
そして烏ケ山南峰から続く稜線も見え始め、南峰も姿を現し始めた。



その稜線のさらに裾野には、尾根を境に針葉樹と自然林に分かれ、針葉樹の濃い緑が自然林の彩を強調してくれている。遠くに霞んでいるけれど日本海の海岸線が東西に長く続いているのが見える。


そんな自然林が続く道で、ここまでで不思議と一羽だけしか鳥が鳴く声が聞こえなかった。するとすぐ目の前の木の枝に留まったカラスが、逃げずにずっと『カーカー』と鳴いている。こちらも負けじと『カーカー』と鳴いてみると、カラスは臆することなく鳴き続けた。さすが烏ケ山だと意味もなく納得しながら歩いて行くと、その烏ケ山の南峰がいよいよ近づいてきた。


道は相変わらず笹と灌木に覆われた道。掻き分けた拍子に固い笹の茎が跳ね返って顔を叩き、灌木の細い枝に袖を引っかけたりと難儀しながら歩いて行くと、南峰直下でロープ場が現れた。
苔が生え濡れたロープが掛かった岩場はとても滑りやすい。
そのロープ場を登りきると二日前に観測された、大山の初冠雪の跡が残っていた。



その先で周りの景色が一度に見渡せた。南には谷から峰へ絵具をこぼしたように多彩な色が広がり、目の前には一瞬烏ケ山の山頂と見間違えそう南峰の尖ったピークも彩をまとっていた。



露岩の続く道を巻き道があるのにわざわざ岩の上を歩いてくる奥様。すぐ横は切れ落ち滑り落ちれば奈落の底だ。

すると次に現れたのは、剣山の行場にあるおくさりの様な岩の切れ目が細くなった所にロープがかかっていた。痩せの奥さまは何の問題もなくスイスイと登って行ったが、メタボの私は狭い場所で、お腹の浮き輪に膝が当たって体が持ち上がらない。



メタボチェックの岩場、おくさりを登りきると新小屋峠と山頂への分岐。たしかこの辺りの岩の上であの宇多田ヒカルが天然水・奥大山のCMを撮っていたはずだが、はたしてどの岩かが分からない。
『ヒカル岩』と呼ばれている岩だが、取りあえずはそれらしい岩の上で写真を撮ってみるが、どうも雰囲気が違っているみたいだったので、この先で会う人に正確な場所を聞いてみることにして分岐からさらに上へと登って行く。



岩場を乗り越えると短い距離だが平坦なピークになっていた。その先でネットで調べていて目に留まった、大山の南東壁を背にした烏ケ山の山頂が目の前に姿を現した。
灰色の冷たい雰囲気のする南東壁から赤く染まって緩やかに広がる大山の裾野、今まで見たことのない絶景に思わず『お~お』と声がでる。
この絶景が見たくて今日はここまでやってきた。思っていた以上に実際に見る景色は100点満点だ!いやそれ以上か!


南峰からはいったん下って、南峰から見えた通りの急な斜面を登ると烏ケ山山頂に着いた。山頂には女性二人の組と男性二人の組、そして駐車場で先にスタートしたご夫婦が休んでいた。その人たちに簡単に挨拶をして、山頂標の後ろの大岩の横から先に回り込むと、背の低い北峰の奥に遮るものがなくなった南東壁がさらに大きな姿で現れた。
目の前の北峰も鮮やかな色彩を放っていたが、その奥でキリン峠から三角にすそ野を広げ、絵の具を散りばめたような原生林が続いていた。



その南東壁から北東に続く稜線の端に見えるのは振子山と親指ピークだろうか?
その途中には三鈷峰がちょこんと頭を出している。


見下ろしたそのすそ野は光の当たり方でその彩度を変えていく。陽の当たった山肌が明るく輝くのを見て私たちの目は奪われる。四国にも紅葉の名所はいくつもあるが、これだけのスケール感が広がる場所はない。この大山が西日本でも屈指の人気の山だというのが頷ける。
この景色を目の前にしてザックを降ろして、朝つるや食堂で仕入れたお弁当を食べる。それにしても何という贅沢な時間だろうか。


お弁当を食べた後はこれだけの景色を目の前にたっぷりと撮影タイムを撮る。
先にお昼を終わらせていたご夫婦と少し話をすると、車中泊をしながら山に出かけているという。この大山の景色が素晴らしいと話をすると、以前に出かけた石鎚山の紅葉も良かったと話をしてくれた。


大岩まで戻ると今度は男性二人がその岩の前で何か躊躇している様子だった。年配の男性から『この岩を登っている人がいますよね』と声を掛けられたが、登ろうと思ったが取り付き方が分からない様子だったので、へっぽこながら私が登ってみた。ソールがすり減りグリップの効かない登山靴で少し手こずったが、何とか大岩の上へ上がってポーズ。
続いて奥様がチャレンジしてみるも、足がかり手がかりの位置がなかなか分からずに途中であきらめ降りてきた。
二人に『頑張ってみてください』と声をかけて山頂をあとにした。


山頂から下り始めると向かいの南峰から下ってきている団体の姿が見えた。
先ほどのご夫婦が『徳島から18名の団体が来ています』と教えてくれたが、その団体さんの様だ。このまま待っていたのでは人数からしてけっこう時間がかかりそうなので、南峰までは離合しにくい狭い道だがそのまま下って行く。
すると鞍部の手前で高齢の男性がひとり『ゆっくり降りて来てください』と声をかけてくれた。その後『二名通過!』と後ろに向かって声をだす。どうやら団体さんのリーダーのようだ。その後鞍部で残りの人たちと離合。どこかの山の会だろうか、平均年齢は高そうだが、団体行動の統率がとれている。
南峰に上る途中で振り返ると、烏ケ山の山頂へ数珠なりなって登っている団体さんの姿が見えた。


南峰から新小屋峠とキャンプ場の分岐まで降りる。スマホで『宇多田ヒカル・奥大山』と検索すると、それらしい岩の上に座っている宇多田ヒカルの画像が出てきた。
多分この岩だろうと目星をつけて、朝わざわざ買ってきた天然水・奥大山を片手に決めポーズ。いい歳したおばさんとおっさんがよくやるわ~。



分岐から新小屋峠へと進むといきなりのロープ場だった。稜線の北側になるロープ場はまだ濡れている岩が足を滑らせる。往路よりも長く続くロープ場だったが、ここで少し足を滑らせ岩に膝をぶつけてしまう。幸い半月板が欠けている内側でなく外側だったが、足が地面に着地する度に響いてくる。


何とかロープ場をクリアすると烏ケ山の険しい大岩壁が見渡せた。その山頂から派生する支尾根の色彩も見事の一言に尽きる。

道は急に開けて景色が広がったり、灌木の中の道になったりと変化に富んだ道。ただ頭の上や道の脇にはずっと秋色が続いていく。
道は所々でぬかるんでいて、ストックが効かずに笹を握りながら下るヶ所もあった。



烏谷の最上部に当たる向かいの山肌は、赤や橙の色の絵の具を筆先で置いた上に、山吹色が散りばめられているのがアクセントになっていてとてもきれいだ。

周りをこれだけの彩に囲まれながら歩いたことが今まででもそうそうない。赤からオレンジそして黄色へと次々に色が変化していく。そんな彩に見とれて足元を見ずに歩いているとぬかるんだ場所で足を滑らせてしまう。


陽が当たらない烏谷の最上部では、葉が散ってしまった木が白くまるで雪か霧氷がついたように見え、どこか寒々としてまた一味違った風景に見えた。
振り返ると先ほどまでいた南峰が薄くもう随分と遠くに見えた。


山頂では同じくらいの高さに見えた振子山もずいぶん上の方に見え、けっこう降りてきたのが分かる。
さらに下っていくと道標の立つ分岐に着いた。右に折れると新小屋峠への道、道標には書いていないが少しそのまま進むと 四島三角点 西鴨 1230.49m があるのを残念だが見逃してしまった。


分岐から右に折れると斜度はそれほどではないが長いロープ場が現れた。
やはりまだまだ足元が濡れている。滑らないように足を突っ張ったり、所々にある段差で足を降ろすとさきほど打った膝が痛む。



雲が広がり始めたのか、まだ14時過ぎだが周りが少しうす暗くなってきた。
それでもまだまだ今シーズン最後の秋色は楽しめる。陽が当たった鮮やかな色ではないが、薄く少し霞んだ彩も幻想的でまあまあ良い雰囲気だ。


ブナの森の中の道。ひときわ目立つ大きく四方八方に枝を広げたブナの大木。ほっそりとはしているがこの森の女王様だろうか。
相変わらず鳥の鳴く声も聞こえてこず、笹をかき分ける音だけが聞こえてくる。



最後の最後まで笹に覆われた道。車道を走る車の音が聞こえたと思ったら、あっという間に新小屋峠の登山口に着いた。
キャンプ場登山口とこの新小屋峠登山口が烏ケ山のメインの登山口だが、取り付きにある道標は柱から落ち、白いプレートも一枚落ちていたので拾い上げてみると『えっここでもクマが出るの?』


今日のこの日を狙ってやってきた初めての烏ケ山は、大山の本峰ではないけれどもその素晴らしさを教えてくれた。
初夏のイワカガミそしてこの秋と、『またまた出かける場所が増えたね』『来年はどの辺りを登ろうか』と奥様。いえいえまだ三の沢から二の沢を線でつなぐのを諦めていないのは分かってますよ。

早めに降りたので環状道路へ車を走らせ秋の大山を満喫。
御机の藁葺小屋

鍵掛峠は南壁に雲がかかって残念。

三の沢の黄葉はなんという素晴らしさだ。

升水高原もまた違った雰囲気の彩だった。
