この時期、普通はキレンゲショウマ。なのに本命はおくさり場とは・・・。

 

毎年お盆の前後になると登山者とは別に大勢の観光客で賑わう剣山見ノ越の駐車場には観光バスが停まり、駐車場も車で満車になる。そのお目当てはこの時期に行場に咲くキレンゲショウマ

剣山を舞台に書かれた宮尾登美子の小説『天涯の花』で一躍有名になり、剣山を代表する花となった。

YAMAPにアップされた活動日記を見ると、蕾が多く時期的にはまだ少し早そうだったが、お盆に入って人出が多くなるのを避けて今日西の奥様と出かけてきた。

といっても少し遅めに着いた見ノ越の駐車場では、日陰になる1階部分は満車で、陽の当たる2階の駐車場に停めることになった。

 

いつものように劔神社への石段を登って行くと頭の上ではセミの大合唱が始まっていた。毎度のことだがスタートしてすぐの身体は重く、一段一段身体を持ち上げ登って行く。

 

 

 

拝殿の後ろにはグリーンのガラスに「さわやかな月光の花は凛として気高い」宮尾登美子の直筆で書かれたモニュメントが建てられているが、そのモニュメントを珍しそうに奥様が覗き込んでいる。そしてひと言『こんなのあったかな?』と・・・。

それを聞いた私は思わず絶句!『今まで何度となくこの場所に来ているのに・・・気づかなかったんですか?』と言うと『ハイ!』と即返事が返ってきた・・・・・(汗)

 

境内の温度計は24度示している。やはり下界と比べると随分と涼しい。注連縄を潜って登山道へ歩いて行く。

 

 

原生林の中に続く道。林床は背の低い笹が広がり意外とたくさんの大木が道の脇に立っている。相変わらず生き急ぐようにセミが鳴いている。

すれ違った年配のご夫婦に『咲いていましたか?』と声をかけると、『ぐるっと行場を一周してきたの。不動の岩屋の方にもたくさん咲いていましたよ』とうれしそうに笑顔で奥さんが答えてくれた。

 

 

普段は9時からの営業のリフトも8月は8時から動いている。といっても今日はもうすでに10時を過ぎている。事前に『貞光の集合時間は何時にしますか?』と奥様にメッセージを送るとまさかの『8時30分で!』と返ってきたのだ。

 

 

それにしても今日は身体が重い。右の太もも、左のふくらはぎがすでに張ってきている。普段の仕事中はほとんど椅子に座ってのディスクワークで、この時期は事務所でエアコンを効かせているので、机の下の足元が冷える。ほとんど運動もせず動かず過ごしたあとの週一回の登りの道がほんとうに堪える。

 

 

見ノ越で先に出かけていた四人組の男女に追いついた。『こんにちは!』と声をかけ横を通ると、一人の男性がファン付の上着を着ていた。『涼しいですか?』と奥様が尋ねると、『けっこう涼しいですよ』との事。そう言えばWOC登山部ヤマさんも同じようなの着ていたのを思い出した。

 

西島神社の巨岩の上で定点観測。奥様と待ち合わせた貞光では青い大空が広がっていたが、雲海荘の上には白い雲が広がり始めていた。

 

 

 

西島駅に着くと珍しくひとりの人影もなく『あら珍しい~』と奥様。駅舎の横のベンチに腰かけ西に見える景色を眺めていると、後ろで奥様が『あれが三嶺ね、そしてこっちが塔ノ丸!』と丸笹山を指しながらおっしゃった。

『ブ~ブ~、信じられません!』先ほどの劔神社での宮尾登美子モニュメントといい、今日は信じられないことを仰る。

『ん~笹ヶ峰?』『ブ~!』・・・・『笹・・・・笹』と考えあぐねているが答えが出そうにもないので『あれは丸笹山ですよ』と。

 

 

しばらくすると2組の年配の男女がやってきた。まわりの景色を見ながら山座同定をしている。こちらもどうやら丸笹山が分らないようなので、『あれが丸笹山ですよ』と教えてあげると、愛媛から来て、今日は泊まって明日の朝に登る予定だと話をしてくれた。

振り返ると奥様の頭の上に可愛らしいお客さんが一匹とまっていた。

 

一息ついて刀掛けの松へと歩き始めると、駅舎の横の花壇ではニッコウキスゲが大きな花びらを広げていた。リフトには観光姿の若い女性たちが乗ってきていた。

 

 

 

駅舎から刀掛けの松までの間の道の両脇には、テンニンソウの青々とした葉が斜面いっぱいに広がっている。毒があるかどうかは分からないが、これだけ群生しているのは、たぶん鹿さんは好まないのだろう。

 

 

刀掛けの松から行場への道に入るとさっそくカニコウモリのお出迎え。花自体が小さいのであまり目立たないが、かなりの群生だ。

 

 

行場の不動の岩屋劔神社との分岐から一旦左に折れて『われわれもぐるっと一周しましょう』と奥様に伝えて、少し荒れた急坂を下って行くと、ヒュッテの人が道の整備をしていた。『ご苦労様です!』と声をかけてすれ違う。

お目当てのキレンゲショウマはまだ五分にもならない程度。花はなくてもドングリを黄色くしたような肉厚の蕾が意外と可愛らしい。さらにもうひとまわり小さな丸い蕾は、むかしからある米菓の鴬ボールのような形をしている。

 

 

そんな中開いている花もあったが、けっこうな数の花先がすでに茶色く変色していた。

その開いた花を目指してそこらじゅうでハチたちが忙しそうに飛び交っている。

 

 

 

剣山本宮劔神社末社三十五社を祭った岩の周りには、ツリガネニンジンの他にも小さな草花が咲いていた。その奥にある磐座には注連縄が巻かれていた。

 

 

 

三十五社からさらに下って行くとほったて小屋のような剣山本宮両劔神社についた。このご神体は後ろにそびえ立つ巨岩なので、中に写真を飾ってあるこの小屋には特に意味はなさそうだ。



 

 

劔神社から折り返すように急登を登って行くと、奥様の今日の本命のおくさり場に着いた。ただ昨日雨が降ったのか予想に反して残念なことに岩肌が濡れていた。

濡れた足元は登りづらいと思い、まずはザックを置いて試しに奥様が登って行く。石灰岩がチムニー状に割れた岩肌はとても滑りやすく、しかも今日のように濡れていると足を置いても滑るだけなので、鎖の輪っかを頼りに登って行く。

 

 

 

奥様が登っている間、不動の岩屋の方へ少し登って行くとここにもキレンゲショウマの群生地があった。その先では前回、皿ケ嶺で見たギンバイソウの群生地にもなっていた。

 

 

 

それらの花の写真を撮った後おくさり場まで戻ると、上の方から『登り切ったよ~』と声がした。さらに『置いたザックを持って上がって来て~』と。

ただでさえ狭い割れ目の中を登ってくのに、二つもザックを抱えては引っ掛かりそうで『無理です!』と答えると『え~』と不満そうな声がした。

結局自分で取りに降りて来てもらい、ザックを背負い直してもう一度登る事に。

 

途中ほぼ垂直に近い場所もあったが、鎖の輪の中に足先を入れながら登って行く。ただ鎖の輪の間隔は一定でなく、ヶ所によっては足が届きにくい所もあって奥様も少し苦戦のご様子だ。

 

 

その難所を過ぎると岩肌に足掛かりができて断然登りやすくなり、奥様もスイスイと登って行った。

 

 

鎖の頂部はさらに大きな輪っかが岩に留められていた。その輪には寄贈者の名前を刻んだプレートが掛けられたいた。

 

 

おくさり場を登りきると、以前に登ったことのある不動の岩屋からの登山道に出た。シコクザサの濃い緑の中を九十九折れの急登が続いて行く。

 

 

樹林帯を抜けると奥様の頭上には雲海荘の青い屋根と青い空が広がっていた。振り返ると穴吹川に沿った国道438号線が木屋平へと緩やかに蛇行しながら続いている。

 

 

 

宝蔵神社とヒュッテの前には次々と登ってくる人の姿があった。ひとまずお参りをしていると社務所の中から法被を着た男性がやって来て、『天気の条件が良いと、ここから北に坂出市の斜め奥に大山が見えるんですよ』と写真を見せながら説明してくれた。

月に一度当番で泊込みでこの社務所に来ているという男性は、どうやら宮司さんではないらしい。愛想よく相槌を打って話を聞いているとさらにどんどん話が止まらなくなり、次から次と楽しい話を聞かせてくれた。どれくらい話を聞いていただろう。その男性が後から来た親子に輪くぐりの作法を説明し始めたので、その隙を狙って『ありがとうございます!』と言って、すぐ横の階段をそそくさと登って行く。

 

 

階段を登って山頂の笹原に続く木道を歩いて行くと、空には次第に雲がかかりガスがかかり始めていた。いつもならこのまま山頂に向かって歩いて行くのだが、今日はすでに目的を達成して満足した二人は西のテラスへと歩いて行く。

 

 

テラスに腰掛けさっそくお昼ご飯に。すると若い男女のクループがやって来て荷物を広げ始めたが『すみませんライター持ってないですか?』と声をかけられた。男性がバーナーを持ってきていたが着火装置の不具合で火が付かないようだ。隣に来た家族連れにも声をかけたがお持ちでないようだ。『神社に行けばライターを貸してもらえると思うよ!』と言ってあげると、女性陣が直ぐに宝蔵神社へと歩いて行った。

我々が食べ終えても戻ってこない二人だったが、ずいぶん時間がかかって戻ってきた二人に、『神社で話し込まれた?』と聞くと『ハイ・・・!』と笑って答えくれた。

 

 

お昼ご飯を食べ、奥様にアイスコーヒーを頂いた後、西のテラスから山頂へと歩いて行く、次郎笈への秀麗な稜線はガスに隠れてほとんど見えなく、いつもなら気落ちするところだが、おくさり場を登れた達成感で満足した二人には残念という気持ちが全く湧いてこなかった。

 

記念撮影をすることもなく直ぐに山頂を後に、山頂トイレの方への木道を歩いて行く。途中でほら貝の滝への分岐からは笹の斜面の奥の槍戸山にもガスがかかり始めていた。

 

 

 

宝蔵神社まで降りて参道の鳥居の下の分岐から、まだ奥様が歩いたことのない大剣神社への道を下って行くと、途中から西島駅西島神社の巨岩が見渡せた。

 

 

 

大剣神社の上部に来ると色々と伝説の残る鶴岩と亀岩。ただこの岩を鶴岩と亀岩とする人達とは別に、山頂近くにある岩をそれとする人達もいて考察は分かれている。

古代史のロマンが宿る岩だったが、奥様にとっては全く興味はなく、それよりも御塔石を眺めながら、『あそこからあそこを伝ったら登れるわね!』などと、罰当たりなことを呟いていた。

 

 

現生最高の良縁を結ぶと云われる大剣神社の拝殿には、男の子を連れた女性が何故か熱心に手を合わせてお祈りしていた。

 

大剣神社からは西島駅へと下って行く。こちらもシコクザサとテンニンソウを分けて道が続いている。15分ほどで着いた西島駅には朝と同じように人の姿はなく、一服もせずにそのまま見ノ越と歩いて行く。

 

 

キレンゲショウマは思っていたとおりまだ蕾が多い状態だったけれど、硬く閉じたつぼみは開いた花と比べても可愛らしくて見えた。念願のおくさり場を登り、途中でも山頂でもすれ違う人と今まで以上に楽しく話が出来て、とても有意義な一日だった。

 

今日であった花たち